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乳がんの治療(薬物療法)

乳がんの治療について

乳がんの治療は、手術、放射線による局所治療、手術前後に行う薬物療法による全身治療を、患者様の状態によって適切に組み合わせて行うことになります。
ここでは主に薬物療法について解説しますが、その前にそれぞれの治療に際しての当院の対応をご紹介しておきます。

手術

当院では、手術が必要な患者様には、当院と連携する高度医療機関をご紹介致します。もちろん、手術に際してご希望の医療施設がある場合には、当院よりその医療機関に紹介状を書かせていただきます。手術後は当院で再発がないかのフォローや内分泌療法(ホルモン療法)を行うことが可能です。

放射線治療

当院では放射線治療は行っておりません。当院と連携する高度医療機関にて受けていただきます。放射線治療は入院の必要はなく通院で受けることができます。そのため放射線治療が続いている間も当院に通院していただき、フォローを行うことは可能です。

薬物療法

当院では、薬物療法として主に内分泌療法(ホルモン療法)を行っています。内分泌療法を行う際に出現する副作用に対しての相談をすることも可能ですし、一部の内分泌療法の副作用で出現する骨密度低下に対して、骨密度検査をすることも可能です。

乳がん手術の術前・
術後に行う薬物療法について

乳がん手術の術前・術後に行う薬物療法について

乳がんの薬物療法では、化学療法、ホルモン療法、分子標的薬法(抗HER2療法)による治療の3つから、患者様の病態にあわせて、単独、または組み合わせ最適なものを選び、治療を行っていきます。

化学療法

がん細胞は突然変異した無限に増殖する細胞ですが、この増殖機能にダメージを与えるように作られた薬が抗がん剤です。抗がん剤を用いた治療法を化学療法と言います。

ホルモン療法

ホルモン受容体陽性乳がんという、エストロゲンががん細胞の増殖に関わるタイプの乳がんに有効な治療法です。

分子標的療法

人の上皮の成長を促すHER2というタイプのたんぱく質を利用して成長するHER2陽性タイプの乳がんに対して行う治療法で、HER2からがん細胞に対する増殖を妨げる抗HER2薬という分子標的薬*を用います。

*分子標的薬とは特定の分子にだけ作用するように設計された薬のことです。

術前の薬物療法

しこりが大きい浸潤がん、皮膚に浸潤しそのままだと手術が困難な局所進行乳がん・炎症性乳がんの場合には,術前化学療法が第一選択となります。
手術可能な早期乳がんの場合では、診断時にしこりが大きいために乳房温存手術が困難で、術後化学療法が必要と判断された乳がんで、患者さまが乳房温存手術を希望されるときに術前化学療法を行います。HER2陽性タイプやトリプルネガティブの乳がんの場合、多くのケースでこの治療を行います。トリプルネガティブとはがん細胞の成長に関わるエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体が認められず、HER2の増加も認められないタイプの乳がんのことをいいます。

術後の薬物療法

手術の病理結果から再発リスクなどを考慮し、後述する乳がんのサブタイプにあわせた薬物療法を行います。

乳がんのタイプごとに異なる薬物療法

がん細胞が持っている遺伝子の情報にはいくつかのタイプがあり、それによって乳がんの性質が異なってきます。このがん細胞の遺伝子のタイプによる分類を乳がんのサブタイプと言います。
サブタイプによって適する薬物療法のタイプも異なり、ホルモン療法、化学療法、分子標的薬療法の中から最適なものを選んで治療を行います。

乳がん細胞による
サブタイプ分類

乳がんの細胞が持つ性質によって、2種類のホルモン受容体、HER2の陽性と陰性、乳がんの増殖因子であるKi-67の値を組み合わせて、5つのサブタイプに分類されます。

ホルモン受容体 2種類
  • ER(Estrogen Receptor)=エストロゲン受容体
  • PgR(Progesterone Receptor)=プロゲステロン受容体
HER2

HER2は上皮細胞の増殖に関わるたんぱく質で、がんの表面に存在して細胞の増殖を促進してしまうことがあります。HER2陽性タイプの乳がんの場合、がんの増殖速度が速い悪性度の高いがんと考えられますが、分子標的薬(抗HER2薬)の登場により予後が改善されているがんともいえます。

Ki-67値

Ki-67は細胞の増殖能を表す核内タンパク質です。乳がん細胞を免疫染色という特別な染色方法で染色すると、Ki-67が染まります。染まった細胞は増殖期にあるので、それが多いほど腫瘍の増殖脳が高いことを示します。Ki-67が高値であるということは悪性度が高く再発しやすく、予後が悪いといわれています。

サブタイプ分類による乳がんの特徴

サブタイプ分類により、乳がんはルミナールA、ルミナールB(HER2陽性)、ルミナールB(HER2陰性)、HER2増殖、トリプルネガティブの5つの特徴に分類されます。

サブタイプ分類 ホルモン受容体 HER2 Ki67 薬物療法
ER
(エストロゲン受容体)
PgR
(プロゲステロン受容体)
ルミナールA型 陽性 陽性 陰性 ホルモン療法
ルミナールB型(HER2陽性) 陽性 陽性あるいは陰性 陽性 低~高 ホルモン療法、化学療法、抗HER2療法
ルミナールB型(HER2陰性) 陽性あるいは陰性 陽性あるいは陰性 陰性 ホルモン療法、化学療法
HER2型増殖 陰性 陰性 陽性 化学療法、抗HER2療法
トリプルネガティブ 陰性 陰性 陰性 化学療法

化学療法

抗がん剤を用いて癌を治療することを化学療法と言います。抗がん剤には、癌細胞の増殖を抑えたり、再発や転移を防いだりする効果があります。
抗がん剤は正常な細胞にも影響を与えるため、副作用も懸念されますが、近年では副作用に対して使用する良い治療薬も一緒に使われています。

複数の抗がん剤を組み合わせた治療

抗がん剤には様々な種類があります。乳がんの治療に適した抗がん剤も多くの種類があり、乳がんのタイプによってそれぞれに適した抗がん剤を同時にいくつか組み合わせることや、順番に使っていくことで、作用のメカニズムが異なる複数の薬剤の効能を効率的に引き出してがん細胞を叩くことができます。

種類 効果
トポイソメラーゼ阻害薬 「トポイソメラーゼ」と呼ばれる、DNA構造を変化させてしまう酵素の働きを妨き、がん細胞がDNAを合成できないようにします。
微小管作用薬 微小管は細胞骨格の1種で、細胞分裂行う際に重要な役割を担います。
微小管に作用することでがん細胞の分裂を阻害します。これにより、がん細胞を死滅させることができます。
アルキル化薬 がん細胞にアルキル基という原子の塊を付着させることで、DNA構造を変化させ、増殖を抑えます。
代謝拮抗薬 代謝拮抗薬は、がん細胞が増殖するために必要なDNAやRNAの材料と酷似しているため、がん細胞が代謝拮抗薬を取り込んでしまい、がん細胞を死滅へと導きます。
白金錯体 DNAの鎖内と鎖間に架橋を形成することにより、がん細胞がDNAを合成が阻害されます。これにより、細胞分裂を阻害しがん細胞を死滅へと導きます。

抗がん剤の副作用

抗がん剤=副作用が強いというイメージを持たれている方は多いと思います。たしかに抗がん剤は、がん細胞の増殖に対して強い攻撃力を持つため、消化管、骨髄、毛髪などの正常な細胞も同時に影響を受けて副作用が出てしまうことが多くなっています。

しかし、現在ではこの副作用に関して研究が進み、副作用を低減する様々な薬剤も開発されてきています。また副作用を予防する方法や副作用に対処する方法も確立してきており、以前より副作用に悩まされることは少なくなってきています。
なお、薬の効果のあらわれ方は人様々で、副作用のあらわれ方も人によって異なりますので、以下に挙げるような副作用が必ずあらわれるとは限りませんし、まったく別の症状があらわれることもあります。

吐き気・嘔吐

吐き気が起こったり、実際に嘔吐してしまったりすることがあります。事前に吐き気を止める薬を化学療法の点滴開始前に投与することもあります。また点滴開始後に吐き気が起こった場合には吐き気止めの内服薬を処方することで対処します。

脱毛

治療中は、毛髪や眉毛、まつ毛、その他の体毛が抜けてしまうことがあります。治療終了後しばらくするとまた生えてきますが、それまでの間はウイッグでイメージチェンジを愉しむ方や帽子によって保護する方などがいます。

骨髄抑制・貧血・出血

骨髄は白血球、赤血球、血小板など血液を構成する細胞を作っていますが、抗がん剤治療中はこれらの細胞が減少します。特に白血球は、入れ替わりのサイクルが早く、治療の影響を受けて減少しやすい細胞です。そのため、治療開始前に予防措置として白血球の生産を増やす働きのある薬を投与する方法が近年増えてきています。

一方赤血球は、長く治療を続けることによって減少してきます。赤血球が減少することで貧血が起こります。血小板が減少すると血が固まりにくく、出血しやすくなります。

末梢神経への影響

抗がん剤によって末梢神経に影響が及び、手足がしびれる、ピリピリと電気が走るような感覚がある、刺すような痛みがある、感覚が鈍いといった副作用があらわれることがあります。タキサン系抗がん剤という植物樹皮由来の薬剤で特に多くなっていますので、事前に予防措置を施すか、事後に症状が強い場合は対症的な治療を行います。

その他

アレルギー(過敏症)、感覚鈍麻、関節痛、筋肉痛、手足の痛み、息苦しさ、倦怠感、浮腫(むくみ)、肝機能障害、下痢、血管炎、口内炎、卵巣機能異常、爪の異常といった様々な副作用が起こることもあります。

ホルモン療法

乳がんのうち6割は女性ホルモンのエストロゲンの影響を受けて増殖するタイプのがんです。このような乳がんに対しては、エストロゲンを受け入れる分子の働きを抑制するタイプの薬や、エストロゲン自体の産生を抑える薬を使用してがん細胞の増殖を抑制します。

閉経の前後で使用する薬剤が変わります

月経のある間と、閉経後ではエストロゲンを作る仕組みが異なります。そのため、閉経前と後では使用する薬剤が異なります。

閉経前

月経のある間は、エストロゲンは卵巣で作られます。

閉経後

月経が無くなると、エストロゲンは卵巣では作られないようになります。そのため、副腎皮質から作られる男性ホルモンのアンドロゲンが脂肪に含まれるアロマターゼという酵素を利用してエストロゲンを産生することになります。

乳がん治療に使われる
主なホルモン剤

閉経前の術後ホルモン療法

月経のある間は、エストロゲンが乳がん細胞に作用してがん細胞を増殖するのを抑える抗エストロゲン薬を5-10年間投与します。また、卵巣でエストロゲンが生成されるのを抑制するLH-RHアゴニスト製剤を2年あるいは5年間投与します。なお、アゴニストは作動薬ともいい、受容体に結合して情報を伝達する役割をする薬剤です。
治療中に閉経を迎えるケースがありますが、その場合は抗エストロゲン薬の治療は5年間継続した後、脂肪からエストロゲンを作る酵素であるアロマターゼ阻害薬を5年間投与することもあります。

種類 効果
LH-RHアゴニスト製剤 エストロゲンが卵巣で作られるのを抑える
抗エストロゲン薬 エストロゲンが乳がん細胞に作用するのを妨げる
黄体ホルモン薬 間接的にエストロゲンの働きを抑える

閉経後の術後ホルモン療法

脂肪などからエストロゲンを産生する働きのある酵素アロマターゼを抑制するアロマターゼ阻害薬を5年間または10年間投与します。
関節痛などの副作用が強い場合は、抗エストロゲン薬を内服するケースもあります。また患者様の状態によっては、抗エストロゲン薬を2~3年間投与し、その後アロマターゼ阻害薬に切り替えて計5年間投与する方法や、抗エストロゲン薬を5年間服用した後、アロマターゼ阻害薬を2~5年間投与する場合もあります。

種類 効果
アロマターゼ阻害薬 エストロゲンを作るアロマターゼの働きを妨げる
抗エストロゲン薬 エストロゲンが乳がん細胞に作用するのを妨げる

ホルモン剤の主な副作用

ホルモン療法では更年期障害のような副作用があらわれることがあります。症状が強く、日常生活に差し障りが出るようなケースでは、遠慮なくご相談ください。

ほてり・のぼせ・発汗

更年期障害によくあるホットフラッシュの症状があらわれやすくなります。ホットフラッシュとは突然、顔や体が熱くなり、汗がふき出ることをいいます。そのほか、のぼせ、ほてり、発汗といった症状がでやすくなります。閉経後のホルモン療法よりも閉経前のホルモン療法であらわれやすい症状です。乳がんの既往がない場合の更年期障害では、ホルモン補充療法を行いますが、乳がんの既往がある場合、ホルモン補充療法を行うことはできないため、漢方薬などを使って対症療法を行います。

頭痛・肩こり・イライラ・
うつ状態

頭痛や肩こりなどの肉体的症状に加え、イライラや抑うつ、不眠などの睡眠障害といった精神的症状もあらわれやすくなります。
睡眠薬や精神安定薬などを処方したり、場合によってはメンタルクリニックをご紹介することもあります。

筋肉痛・関節のこわばり

筋肉痛や関節のこわばりなどがあらわれることがあります。適度な運動などで症状が緩和されることが多いのですが、重度の場合は消炎鎮痛薬などを処方します。場合によっては整形外科受診をお勧めすることもあります。

骨密度低下

閉経後のホルモン療法では、エストロゲンが減少することによって、骨密度が低下し骨粗鬆症になることがあります。年1回程度、定期的に骨密度検査を行い、必要に応じてビタミンDの内服、骨粗鬆症の薬の注射・処方などを行います。
日常生活の中では運動やカルシウムの吸収を助けるビタミンDの産生を促すため紫外線にあたることも重要です。

その他

不正出血、膣炎といった生殖器に関連する症状、血栓などの循環器障害などが起こることもあります。ホルモン治療中の何らかの気になる症状がありましたら、遠慮なくご相談ください。

分子標的薬法(抗HER2療法など)

分子標的薬とは、特定の分子だけに影響を及ぼす薬剤のことです。がん細胞に特徴的に見られる分子に対して薬剤が効果をあらわすことによって、効果的にがん細胞の増殖を抑えることが可能になります。
乳がんでは、HER2とよばれるたんぱく質ががんの増殖にかかわるHER2陽性タイプのがんがあります。HER2が異常に増殖することによってがん細胞の増殖速度が速くなるため比較的悪性度の高いがんと考えられています。
このHER2の働きをピンポイントで攻撃する分子標的薬が抗HER2療法です。がん細胞の表面にあるHER2たんぱく質と抗HER2薬が結合することでHER2からのがん細胞増殖に関する指令が遮断されることになり、がん細胞の増殖はストップします。

分子標的薬の副作用

HER2陽性タイプの乳がんの分子標的薬には、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体という薬が使われます。主な副作用としては発熱、悪寒、下痢、発疹などが挙げられます。どのような副作用があらわれるかには個人差があります。

その他の分子標的薬

血管内皮の増殖作用に関するVEGFという物質の働きを阻害する、抗VGEFヒト化モノクローナル抗体薬、細胞増殖に関わるmTORという物質の阻害薬、CDKという酵素の働きを阻害するCDK4/6阻害薬などの分子標的薬が乳がんの治療に使用される場合があります。これらは比較的新しい治療法として、乳がん再発患者様のみならず、進行乳がん患者様にも投与を検討する治療法です。これらの使用については副作用の問題などもあるため、経験豊富な乳腺外科医や腫瘍内科医による慎重な検討が必要です。